ファスナーの先が割れた。裏地が裂けた。袖口のリブが伸びきってしまった。
調べれば、直し方はいくらでも出てきます。道具も売っています。やってみようかと思うところまで来て、それでも手が止まる。もし戻せなかったら、と考えるからだと思います。
その迷いは、正しいと思います。
ただ、「接着剤は使うな」「削るな」といった話ではありません。工房でも、接着します。削りもします。違うのは、順番と、どこから手を入れるかです。
寸法を変えたい(大きい・小さい・袖が長い)場合は、話が別になります。そちらは身幅詰めを自分でやる場合とプロに出す場合の線引きをご覧ください。この記事は、傷んだところを直す話です。
分かれ目は、作業の名前ではありません
「接着はだめ」「やすりはだめ」と覚えても、あまり役に立ちません。工房ではどちらもやっているからです。

大事なのは三つの区別です。
① 跡が残らない作業 ── どうぞ、ご自分で。やりすぎなければ元に戻ります。
② 工程の一部としてやる作業 ── 接着、削る、針を入れる。単独ではやりません。裏地を解いて革の裏面に届いてから、決まった順番で行います。
③ 戻らない作業 ── 染めること。革の繊維に入り込むので、元に戻せません。
自分でやってよいのは①です。②は「やり方」ではなくそこに至る順番が仕事なので、途中から入ることができません。
どうぞ、ご自分で ── 跡が残らないこと
汚れを落とす、油分を入れる
乾いてきたと感じたら、手を入れていただいてよい範囲です。ただし、使うものは選んでください。
有機溶剤が入ったものは、あまりおすすめしていません。化学物質が含まれていて、不自然な光沢が出ることがあります。もとの仕上げの上に、別のつやが乗ってしまいます。
- クリームタイプ … 水分と油分を補うもの。伸びがよく、量を加減しやすいので、ふだんの手入れに向いています
- 固形タイプ … 油分やろうが多く、表面に膜をつくります。しっとりしますが、入れすぎると重くなり、色も濃くなります
どちらも、少しずつ、様子を見ながらが基本です。足りなければ後から足せますが、入れすぎたぶんは抜けません。
濡れたときの乾かし方
急いで乾かすと硬くなります。その日のうちにやることを革ジャンが雨に濡れたらにまとめています。
しまい方、掛け方
型崩れの多くは保管で起きています。→革ジャンの保管方法
緩んだホックの締め直し
外から留めるだけの部品は、革に穴を増やしません。すでにあいている穴を使うからです。
工房でも、接着します ── ただし、裏面から
裏地が裂けた、縫い目がほどけた。そういうとき、表から接着剤で留めたくなります。
工房でも接着はします。ただし、順番が逆です。
まず裏地を必要な分量だけ解いて、革の裏面にアクセスします。そのうえで、詰める作業であれば縫い代を片返したり、割ったりという処理をしていきます。この工程に、接着が必要です。
つまり接着は、革の内側で、縫い代に対して行うものです。表から、革の表面どうしを貼り合わせるものではありません。
表から貼ってしまうと、あとから正しい位置で縫い直そうとしても、接着された革は動きません。剥がそうとすれば表面を傷めます。
削る・磨くは、仕上げの工程です
やすりも同じです。傷を消すために削るのではありません。
シルエットが変わるほど詰める作業では、余った革を断ち落とします。逆に革を継ぎ足す作業では、足した革の表面を、いまある革に合わせます。水に濡らすこともあれば、やすりで馴染ませることもあります。
新しい革は、そのままでは浮きます。何十年か着られた革の隣に、下ろしたての面がくる。そこを合わせるための工程です。
だから削る作業は、革を足したあとにしか出てきません。順番が先にあって、そのうえでの仕上げです。
染めるだけは、戻りません
ここだけは、はっきりお伝えします。
市販の補色剤で色を馴染ませるのは、簡単ではありません。そして、染色剤は革の繊維に入り込むので、元に戻すことができません。

この一着は、縫い目の際から革が裂けています。そしてその周りに、色を入れた跡が残っていました。裂けを目立たなくしようとされたのだと思います。
ここは、もう戻せません。

こちらは、襟から肩にかけて色が濃くなっている一着です。その濃い部分の革が、硬くなっていました。何かを塗った形跡があります。
塗った色が思ったより濃かった、範囲が広がった。そこから引き返す方法がありません。上から重ねるしかなくなります。
色の相談は、手を入れる前にいただけると、選べる道がずっと多く残ります。
症状ごとに見ると
ファスナーが壊れた
先端が割れた、テープが切れた、スライダーが噛まない。いずれも交換です。前立ての革を解いて縫い直すので、針が入ります。片側が生きていても、もう片側の摩耗は同じだけ進んでいます。
裏地が裂けた
破れた場所だけを塞ぐことはできます。ただ、塞いだ場所以外も同じだけ古くなっています。いずれ別のところがほころびます。→裏地の交換
袖口のリブが伸びた
リブは伸びきると戻りません。編み地なので、詰めても風合いが変わります。交換が基本です。→リブ交換
エポレット(肩章)やワッペンを外したい
外すこと自体はできます。ただし、跡が残ります。縫い付けてあった針目と、日焼けの差です。外して初めて見えます。
これは、工房で外しても同じです。針の穴は、誰が解いても埋まりません。ですので「きれいに外せますか」というご相談には、外せますが跡は残りますとお答えしています。

写真はワッペンを外したあとの一着です。縫い付けてあった四角い形が、そのまま穴の列で残っています。外すかどうかは、これを見てから決めていただくのがよいと思います。→エポレットとは
革にひびが入った
表面の塗膜が割れているのか、繊維まで乾いて裂けているのか。どちらなのかで、できることが変わります。市販の補修材は前者を想定したものが多く、後者に使うと形だけ塞がります。→革ジャンのひび割れ
それでも、やってみたい方へ
止めるつもりはありません。ご自分で直した革ジャンには、それだけの理由があります。
お願いしたいのは、ひとつだけです。手を入れる前に、写真を撮っておいてください。
元の縫い目の位置、革の重なり方、色の出方。それが残っていれば、あとから工房で直すときに、どこが元からで、どこが後からなのかが分かります。写真がないと、その判断から始めることになります。
迷ったら、送ってください
見立てだけでもお答えしています。写真を送っていただければ、「これはご自分でどうぞ」「これは触らないでください」までお伝えします。
一着ごとに違うので、一般論では決められません。それが、この仕事をしていていちばん実感するところです。
