ジャケットの線画。身幅にあたる左右の脇の縫い目を太い線で示している

ジャケットの身幅詰め|自分でやる場合と、職人に出す場合の線引き

2026.08.07

袖を通して、鏡を見る。丈も肩も悪くないのに、胴だけがもたつく。

身幅を詰めれば直る、というところまでは、たいてい自分で分かります。迷うのはその次です。自分でやってしまうか、誰かに頼むか。

この記事では、やり方は書きません。かわりに、自分で手を入れるとその一着がどうなるかと、どこから先は戻せなくなるのかをお伝えします。

もうひとつ、先にお伝えしておきたいことがあります。身幅を詰めるというのは、たいていの場合、二の腕を細くすることでもあります。 理由は後半で書きます。ここを知らずに頼むと、仕上がってから驚くことになります。


まず、その一着は革ですか、布ですか

同じ「身幅詰め」でも、革と布ではまるで別の作業になります。ここを分けずに読み進めると、判断を間違えます。

布のジャケットなら、自分で手を入れる余地はあります。 脇の縫い目をほどいて、内側に縫い込み、余った布を裁ち落とす。ミシンがあって直線が縫えるなら、現実的な作業です。失敗しても、縫い目をほどけばだいたい元に戻ります。布は、やり直しがきく素材です。

革は、やり直しがききません。 理由は一つで、針を通した穴が残るからです。布は繊維がほぐれて穴が閉じますが、革は繊維がありません。一度あけた穴は、そのまま残ります。縫い目をほどけば、点線のような跡が表に出ます。

だから革の身幅詰めは、「失敗したらほどけばいい」が成立しない作業です。一度縫った線が、そのまま最後の線になります。

この記事の以降は、革のジャケットの話です。布のジャケットをお探しの方は、ここまでで判断がつくと思います。


自分で詰めると、その一着はどうなるか

やり方の説明ではなく、結果の話をします。工房に「自分でやってみたけれど」と持ち込まれる一着に、共通して起きていることです。

① 針穴の跡が残る 先ほどの話です。縫い直しても、最初の穴は消えません。詰め幅を間違えて縫い直すと、平行に2本の点線が入ります

② 家庭用ミシンでは、革が送られない 革は摩擦が大きく、押さえ金の下で滑りません。同じ場所で足踏みし、針だけが上下して、そこに穴が集まります。穴が集まったところは、裂けます。 厚みのある部分(縫い代が重なる箇所)では針も折れます。

③ 手縫いは通りますが、線が揺れます 菱目打ちで穴をあけて手縫いする方法なら、革でも縫えます。ただし脇のような長い直線で、穴の間隔と縫い目の位置を最後まで揃え続けるのは、思っているより難しい作業です。揺れた線は、着たときに脇のシルエットに出ます。

④ 裏地が付いてくる ライダースの多くは裏地があります。表革だけ詰めると、裏地が余ってつっぱります。革と裏地を同じ分量で断たないと、どちらかが余る——ここを揃えるのが、思っているより神経を使う部分です。

⑤ 胴だけを詰めることは、できません これがいちばん見落とされます。

多くのジャケットは、脇の縫い目が、そのまま袖の下までひと続きになっています。 胴の脇を詰めれば、その線は袖下へ続いていくので、二の腕も一緒に細くなります。

つまり——

身幅を詰めるということは、袖幅(二の腕)を詰めるということです。

二の腕にも余りがある方には、これは都合のいい話です。一度の作業で両方が締まります。胴だけがもたついていて、二の腕はちょうどいいという方は、話が変わります。詰めたあとに腕がきつくなる可能性があるので、どこまで詰めるかを先に決めておく必要があります。

なお、肩幅を大きく詰めるときも身幅の調整をあわせて考えます(肩幅詰めの考え方)。寸法は、単独では動きません。

脇の縫い目が袖の下までひと続きになっていることを示した図
脇の線は袖の下まで続いている。だから身幅を詰めると、二の腕も一緒に細くなる。

線引きは、三つで決まります

自分でやるか出すか、この三つで決めてください。

線① その一着に、思い入れがありますか

いちばん大事な線です。練習台にしていい一着なら、やってみる価値はあります。 革を縫う感覚は、やってみないと分かりません。

逆に、二度と手に入らない一着、長く着てきた一着、贈られた一着なら、やめておいてください。 針穴は戻せません。

線② 裏地は付いていますか

裏地なしの一枚革なら、作業は表革だけで完結します。裏地があるなら、表革・裏地・場合によっては見返しまで、同じ寸法で詰め直すことになります。ここから先は、やり直しの回数が増えるほど傷が増えます。

線③ 詰めたい幅は、どのくらいですか

kawaremake での目安は、左右あわせて5cmほどまでです。ここまでは脇の線の中で収まることが多い。

ただしこれは目安で、実際は一着ごとの構造で決まります。 とくに効いてくるのが、次の一点です。

脇下の切り替え線が、後ろ寄りに付いている一着。

この構造で身幅を詰めると、アームホールに段差が大きく出ます。 段差が出たままだと袖の付き方が変わり、着心地が落ちます。詰められないわけではありませんが、袖を外して付け直すところまで含めて考える必要が出てきます。

自分の一着がどちらかは、脇の下を見れば分かります。縫い目が体の真横より後ろ側を通っているなら、この構造です。


職人が身幅を詰めるとき、実際に何をしているか

「身幅を詰めます」と言われても、中身が見えないと、高いか安いかも、頼んでいいかも判断できないと思います。工房でやっていることを、順に書きます。

  1. 採寸する。 いまの寸法と、目指す寸法の差を出します。ここで「胴を何cm詰めるか」だけでなく、その差を脇のどこに配分するかを決めます。均等に詰めるとは限りません。
  2. 裏地を、必要な分だけ解く。 全部を外すのではありません。手が入るところまで解いて、革の内側にアクセスできる状態を作ります。
  3. 脇の縫い目をほどく。 元のステッチを、糸だけ抜いていきます。表革を傷めないように。
  4. 新しい線を引き、縫う。 ここが本体です。元の針穴を避けて、かつ穴が目立たない位置に線を置く——この判断が仕上がりを決めます。
  5. 革と裏地を、同じ分量で断つ。 ここが揃っていないと、どちらかが余ります。落としすぎれば、戻せません。
  6. 裏地を縫い戻す。
  7. 縫い代を落ち着かせる。 革は折り癖が付きにくいので、ここを省くと脇が厚ぼったくなります。

どれくらい時間がかかるかは、一着ごとに大きく違います。 同じ「身幅詰め」でも、構造によって手間はまるで変わります。ですので、あらかじめ一律の目安をお伝えすることはしていません。

その差を生んでいるのが、1で「どこに配分するか」と書いた部分です。後ろ寄りの切り替え線を持つ一着で、機械的に均等に詰めると、アームホールの段差が大きくなります。 段差は着心地に出ます。どこを何cm詰めるかは、寸法の計算ではなく、その一着の構造を見て決める部分です。


逆に、「広げたい」場合

検索では「身幅を広げる方法」も一定数あります。こちらは、詰めるのとは別の作業です。

縫い代を出して広げる、という発想はありますが、革の縫い代はもともと狭く、出せてもわずかです。しかも出した先には古い針穴の列が残っているため、そこが表に出ます。

kawaremake では、大きくしたい場合は 革を継ぎ足します。 脇や背中に別の革を足して、寸法を作り直す方法です。詰めるより手間はかかりますが、針穴の問題が起きないという点で、結果的に無理がありません。

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迷ったときの、いちばん簡単な決め方

二つだけ質問を置きます。

① その一着を、もし駄目にしてしまったら、代わりが手に入りますか。

手に入るなら、やってみてください。革を縫うのは面白い作業です。 手に入らないなら、出してください。針穴は、戻せません。

② 二の腕も、一緒に細くなっていいですか。

いいなら、話は単純です。胴と腕がまとめて締まります。 二の腕はいまのままがいいなら、脇の詰め幅をどう配分するかという相談になります。ここは寸法だけでは決まらないので、一度見せていただくのが早いです。


寸法をどう配分するかは、一着ごとに違います。写真を見て、いまの寸法を伺えれば、どこをどれだけ詰めると収まるかをお伝えできます。

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