サイズはおおむね合っている。前も閉まる。丈も悪くない。
なのに、肩だけが浮く。 鏡で横を見ると、肩の上に革が乗りきっていない。なで肩の方に、特に多いご相談です。
このとき、多くの方が「肩幅を詰めれば直る」と考えます。ですが、肩幅と肩の浮きは、見る場所が違います。 そして実際のご相談でいちばん多いのは、肩ではなく身幅が関わっているケースです。
気になる箇所が肩だけでない場合は、症状別の診断記事からどうぞ。この記事は、肩の浮き一点を深掘りします。
肩幅は「外側」、肩の浮きは「上部」
肩は、身頃・袖・襟が集まる、構造の要です。同じ「肩が合わない」でも、見る場所が分かれます。
肩幅の問題は、肩の外側に出ます。 肩の縫い目の端が自分の肩より外に落ちて、袖の付け根が腕の上に乗る。これが「肩幅が広い」です。
肩の浮きは、肩の上部の話です。 見るのは、肩の上に革の余りがあるかどうか。 なで肩の方は肩の線が肩先に向かって下がるぶん、ここに余りが出やすい。肩幅の数字が合っていても、浮きます。
まず、この二つを分けてください。直しの入り口が変わります。

自分で見立てる、二つの確認
確認1|肩の上部を、軽くつまむ
着た状態で、肩の上の革を指で軽くつまみます。余りがつまめるなら、浮きの本体は肩の上部です。
確認2|前を閉めて、胴を見る
前を閉めたとき、胴が張っていませんか。 身幅がタイトだと、肩の浮きが際立って見えることがあります。この場合、肩だけを直しても浮きは納まりきりません。
両方に当てはまることも、普通にあります。その場合は、どちらから手を付けるかを一着ごとに決めます。
肩の浮きは、肩だけでは治りません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
肩の上の余りを取る作業は、袖をいったん外し、肩の縫い目——肩線から詰めて、袖を付け直します。肩は身頃・袖・襟が集まる場所なので、手の入れ方としては大きい部類に入ります。
そして、肩を調整しただけでは、浮きは納まりません。 肩を詰めた分、身幅——脇の下のほんの一部をつまんで、帳尻を合わせます。 肩と脇下、この二つはセットです。片方だけでは、どこかに無理が残ります。
同じ肩まわりの作業でも、肩幅詰めにこの帳尻合わせは要りません。 肩の外側を詰めるのと、肩の上の余りを取るのとでは、必要な手順が違う。ここが、見た目には同じ「肩を直す」に見えて、実際には別の作業である理由です。
肩幅を詰める場合は、話が別です
肩の外側——肩幅そのものを詰める場合。kawaremake での目安は、一般的なレザージャケットで片側およそ1〜1.5cm(左右で2〜3cm)。ムートンやテーラード型では変わります。これは目安で、実際は一着ごとの構造で決まります。
左右で4cm以上詰めたい場合は、肩幅だけでは納まりません。 袖と身頃の接点が大きくずれ、付け根に皺やツレが出るためです。その場合は身幅と連動して詰めます。詳しくは肩幅詰めの解説に書きました。
エポレット(肩のベルト)が付いている型は、納まりをあわせて考えます。→ エポレットとは
身幅が関わっている場合——タイトでも、大きくても
身幅がタイトな場合。 胴に余裕がないと、肩の浮きが際立ちます。この場合は、身幅のサイズアップ——革を継ぎ足して胴に余裕を作る直し——を同時に行うことで、浮きが軽減されます。 肩だけを見ていると、ここを見落とします。→ サイズアップ
逆に、胴が大きく革が余っている場合。 浮き方によっては、肩に手を入れず、身幅の詰めで納まることもあります。多くのジャケットでは脇の縫い目が袖下までひと続きなので、身幅を詰めると二の腕まわりも一緒に細くなります。ご自分でやるかプロに出すかの線引きも含めて、身幅詰めの記事にまとめてあります。
冒頭に書いたとおり、「肩が浮く」のご相談でいちばん多いのは、この身幅が関わっているケースです。肩の症状に見えて、原因が胴にある。だから、肩だけを見て決めないでください。
迷ったときの、決め方
一つだけ。
肩の上を、つまんでみてください。
余りがつまめるなら、肩の上部から手を付けます。ただし、そのときも脇の下はわずかに触ります。
つまめないのに浮いて見えるなら、身幅を疑ってください。とくに、前を閉めて胴が張っているなら。
いずれにしても、肩と胴は切り離せません。 肩だけ、あるいは胴だけを見て決めない——それがこの症状の要点です。
どちらか決めきれなくても、心配はいりません。この見立ては工房でも実物を見て最終決定します。写真とご相談の内容で見立てを立て、実物で確かめて、必要なら組み直す——先に決めきらないほうが、良い結果になる作業です。
「肩が浮く」だけでは、どこを直すべきかは決まりません。上の二つの確認をした結果を教えていただければ、どちらに原因がありそうかをお伝えできます。
山形県鶴岡市の工房で、全国からご配送でお預かりしています。
