工房の修理台に、いちばん多く届くブランドのひとつが、ショットです。若い頃に手に入れた一着が、いま着るときつい。譲り受けた一着が、少し大きい。ファスナーの噛みが直らない。そんなご相談とともに、全国から届きます。
このページでは、ショットというブランドの成り立ちと代表モデル、パーフェクトのサイズ感、そして「合わない」と感じたときに直せる範囲まで、修理台の視点から順にご説明します。

ショットとは──1913年、ニューヨークから
ショット(Schott N.Y.C.)は、1913年にニューヨークで、アーヴィンとジャックのショット兄弟が始めた会社です。はじまりはレインコートの製造でした。
流れが変わったのは1928年。当時のジャケットはボタン留めが当たり前だったなかで、フロントにファスナーを通した「パーフェクト(Perfecto)」を世に出します。走る速さに耐える前立てを、という発想から生まれた造りでした。アーヴィンが好んだ葉巻の名にちなむと伝えられる、この名前が、のちに一つの型の呼び名そのものになっていきます。
いまもニューアーク近郊の自社工場で、アメリカ国内での縫製が続いています。造りの頑丈さは、この百年あまりの積み重ねの上にあります。
代表モデル──パーフェクトという一族
ショットの型は、番号で呼ばれます。同じ「ダブルのライダース」に見えても、襟の納まり、ベルトの位置、ポケットの角度が、番号ごとに違います。
- 618:スティアハイドのパーフェクト。ショットのダブルといえばこの型、という位置にある一着です。襟にはスナップが付きます。
- 613(ワンスター):1950年代に生まれた、エポレットに星型のスタッズをひとつ配した型。ラモーンズやセックス・ピストルズをはじめ、時代の音楽とともに纏われてきました。襟のスナップを持たない、削ぎ落とされた顔立ちです。
- 118:ゆとりのある、箱型のシルエットを持つクラシックな型。着丈も少し長く取られています。
- 141/641:カフェレーサー。襟を立てないシングルの型で、ダブルとは別の道を歩んできました。
エポレット(肩章)の話は、エポレットとはでも詳しくご説明しています。ワンスターの星は、まさにこのエポレットの上にあります。ライダースの「シングル/ダブル」という型そのものについては、ライダースジャケットとはをご覧ください。
工房でお預かりするのも、このあたりの型が中心です。同じ番号でも、年代によって革も縫いも少しずつ違います。お預かりのたびに、一着ずつ縫いの道筋を確かめながら向き合っています。
革と、年月の出るところ
ショットの一着は、スティアハイド(牛革)を中心に、ホースハイド(馬革)やカウハイドなど、型によって革が選ばれています。厚みのある革は、着はじめは硬く、着るほどに体に沿っていきます。
修理台で先に年月が出るのは、たいてい革そのものではありません。ファスナーの噛み、擦り切れた裏地、緩んだスナップ。革はまだ十分に元気なのに、金具や裏地だけが草臥れている──よく見る姿です。お手元の一着に編み地のリブが使われている型であれば、伸びやヨレの出たリブも交換ができます。
サイズ感──体に沿わせるための設計
パーフェクトは、バイクの上で風をはらまないよう、体に沿わせる前提で設計された服です。ゆとりのある型もありますが、多くはジャストで着たときにいちばん収まりが良くなります。
だからこそ、悩みも生まれます。ジャストで選んだ一着が、重ね着の季節にはきつい。体が変われば、前が閉まらなくなる。逆に、譲り受けた一着が一回り大きいこともある。「ショット、サイズを選び直したい」というご相談は、実のところ、珍しいものではありません。
英国のブランドについてはルイスレザー完全ガイドでも同じようにご説明しています。造りも寸法の考え方も異なりますので、お手元の一着がどちらかで、見立ても変わります。
「合わない」の前に──直せる範囲があります
合わないまま眠らせてしまう前に、知っておいていただきたいのは、手の入れようがあるということです。
- きつい場合:脇に革を継ぎ足して、身幅そのものを広げます。大きくする、という、繕いです。
- 大きい場合:身幅や袖幅を詰めて、体に沿う形へ戻します。詰めは、元の造りを保ったまま納めるのが原則です。
- 袖が長い・短い:袖丈は詰められます。袖口にファスナーやスナップのある型は、そこをいったん外してから納めます。
- ファスナー・スナップ:傷んだ金具は交換ができます。年代ものの表情をどこまで残すかは、ご相談のうえで決めます。
- 裏地:擦り切れた裏地は、新しいものに交換します。
- リブのある型:襟・袖口・裾に編み地のリブが使われている一着は、リブの交換ができます。色と編みの表情を、元の一着に寄せて選びます。
どこにどう手を入れるかは、症状によって変わります。お悩みからの見立て方は症状別診断にまとめました。実際の仕上がりは、ショットの施工事例でご覧いただけます。
いずれも、元の針穴に沿って縫い戻すのが原則です。ほどいて、整えて、同じ道を縫い戻す。ショットの頑丈な造りは手間のかかる相手ですが、そのぶん、直して長く着るに値する一着だと考えています。
見極めと、正直にお伝えすること
お預かりの前に拝見しているのは、革の状態と、造りの納まりです。ひび割れや硬化が進んだ革は、縫い直しの負荷に耐えられないことがあります。年代ものの金具や当時の縫いの表情も、その一着の顔の一部です。手を入れることで失われるものがあると見立てた場合には、その理由とともに、手を入れない選択肢をお伝えすることがあります。
できること、できないこと、仕上がりに残るもの。それを正直に申し上げたうえで、進むかどうかを決めていただく。その順番を大切にしています。
おわりに──その一着と、長く付き合うために
ショットは、直しながら着ることの似合うブランドです。サイズで悩んでいる一着、金具が草臥れたまま眠っている一着がありましたら、全体と気になる箇所の写真を数枚添えて、お気軽にご相談ください。できることをお答えします。
