袖丈を詰めたあとから、脇と背中が窮屈になった。腕を前に出しづらい。──そういうご相談で届いた一着でした。
詰めたのは当工房ではありません。ですから最初に見たのは、その一着が前にどう直されているかでした。
届いたときの状態
お預かりしたのは、Y’2 LEATHER のレザージャケット。ステアのGジャンタイプです。

お客様のお話では、以前に別のお店で肩から袖丈を4cm詰めていらっしゃいます。袖の長さそのものは理想どおりになった。けれども、そのあとから次のことが起きたそうです。
- 脇まわりと背中が、かなり窮屈になった
- 袖が、不自然に前の内側へ巻く
- 腕を下ろしていても、肩から脇、背中に負荷がかかる
- 腕を前に出しづらい

加工の前は、窮屈さはまったく無かった。ここが手がかりでした。体が変わったのではなく、一着のほうが変わっています。
肩から袖を詰めると、この症状は出やすい

袖丈を詰める道は、大きく二つあります。袖口から詰めるか、肩から(袖を一度外して)詰めるか。
肩から詰めると、袖の付け根まわりの寸法に手が入ります。この直し方のあとで、脇や背中の窮屈さを感じるというご相談は、折々にいただきます。
どちらの詰め方が正しい、という話ではありません。一着の造りとご希望によって、肩からでなければ納まらない場合もあります。ただ、そのあとに何が起きうるかは、先に申し上げておくべきことだと考えています。
どう直すと決めたか ── アームホールに、三角のマチを足す
今回は、アームホールを起点に、三角のマチを足しました。

- 左右の身頃に、1枚ずつ
- 左右の袖に、1枚ずつ
- 表の革で、合わせて4枚
- 裏生地にも同じだけ、4枚
- 総合計8枚

表だけ足しても、裏地が突っ張ればそこで止まります。表と裏、同じ分量。革の直しで繰り返し出てくる考え方です。

肩の側に革を継ぎ足して広げる、という道もありません。肩線は一着の顔がもっとも出るところで、そこに手を入れると仕上がりの印象が変わってしまいます。アームホールを起点にしたのは、いちばん表情を動かさずに、必要なゆとりを作れるからです。
3cm という幅
拡張は3cmで納めました。
一度お直しを通っている品物ですから、どこまで足せるかは現物を見るまで決められません。ご相談の段階では「3cmほどが妥当と思います」とお伝えし、現物を確認したうえで、その幅で進めています。
マチを目立たせない
お客様から先にいただいたご心配が、「マチが着たときに目立たないか」でした。
工房には黒の革のストックがあります。そこから色と質感の近いものを選びました。お預かりしたあとで、使う革の現物とマチの入る位置の画像をお送りし、ご了承をいただいてから裁断しています。
この直しで変わること、変わらないこと
正直に申し上げておきたいことがあります。
これは、肩まわりに余裕を出すお直しです。着ていただいたときに、可動域が広がるというより、余裕のある着心地になる。そういう種類の変化です。感じ方には個人差があります。
そしてもうひとつ。袖が前の内側へ巻くという症状については、原因が前の直し方にあるため、「現物を見るまで判断できません」とお伝えしたうえでお預かりしています。直りますとはお約束していません。
できること、判断を保留すること。それを先に分けてお伝えしてから、進むかどうかを決めていただく。その順番を大切にしています。
仕上がり


ほかのご相談との切り分け
- 全体を大きくしたい → Sunset Bayのサイズアップ|革を継ぎ足して大きくする
- アームホールまわりが破れた → アームホール肩まわりの破れ、原因と対処法
- 肩まわりの窮屈さ全般 → 肩まわりが窮屈な革ジャンを快適に着るには?
- 逆に詰めたい → アームホールを詰めない身幅詰め
