「どこまで広げたら、ルイスレザーらしくなくなりますか」
お預かりの前に、お客様からそう尋ねられました。きついから大きくしたい。けれど、ブランドの輪郭は崩したくない。この二つは、同時に成り立ちます。
胸がきつくなったルイスレザーのダブルライダースを、革を継ぎ足して大きくしました。どこに足し、どこに触らなかったか。その見立てと仕上がりを記録します。
お預かりした状態

黒のダブルライダースです。右胸にウイングバッジ、袖口にファスナー、裾にベルト。
ご相談は三つでした。「目立たない範囲で、ウエストから裾を出したい」「アームホールも少しきつい」「バストも裾に合わせて広げたい」。そして、ルイスレザーのシルエットは保つこと。
革を足すと、もっさりするのか
サイズアップは、革を継ぎ足して身幅そのものを広げる直しです。縫い代から出す調整とは別の作業で、足せる量の上限が違います。
継ぎ足しで「どこまで大きくできるか」「アームホールがどう動くか」という話は、別の一着で書きました。サイズアップという直しそのものの説明はこちらにあります。ここでは、ブランドの輪郭を保ったまま広げるには、どこに足して、どこに触らないかに絞ります。
大きくすると野暮ったくなる、と思われがちです。胸まわりだけを膨らませれば、確かにそうなります。
輪郭を決めているのは、脇の縦の線
横から見たときの一着の輪郭は、胸の厚みではなく、脇の縫い目がどう下りているかで決まります。
この一着では、左右の脇に、バストから裾のウエストバンドまで、同じ幅でまっすぐ革を通しました。脇の縫い目が元の位置と平行に下りるので、横から見た輪郭が動きません。胸だけを出して裾に向かって絞ると、その絞りはじめに段が出ます。
足した量は、胸囲で12cm。左右に6cmずつです。

前身頃には、触りません
新しい革が入るのは、脇だけです。脇の縫い目を一本解き、そこに革を通して、二本の縫い目で留めます。二本の間の幅が、足した分です。
ウイングバッジも、胸のポケットも、前のファスナーも、元の位置のまま。ルイスレザーの顔になる部分は、どこも動かしていません。

腕まわりは、足さなくても広がる
「アームホールも少しきつい」というご相談もいただいていました。
脇に入れた革は、腕の付け根を通って裾まで続きます。ですから胸を出せば、腕のつけ根と二の腕まわりにも、そのぶんのゆとりが出ます。腕まわりのために別の作業を足したわけではありません。構造上、そうなります。
裏地にも、同じ分量を足す
表の革を広げるだけでは、終わりません。裏地にも、同じ幅を足します。表だけを広げても、裏地が突っ張ればそこで止まるからです。

裾のウエストバンドも、足りなくなる
裾まで革を通すと、裾のウエストバンドも、そのぶん足りなくなります。この一着では、バンドにも革を足しています。同じブランドの詰める側の一着では、このバンドを後ろ中心で詰めました。同じベルトひとつでも、向きが変われば納め方は別物です。
革は、工房の黒から選びます
足す革は、工房のストックから色と艶の近いものを選びます。今回は黒。革の費用は、お仕立ての料金に含まれています。
お客様からは「目立たない範囲で」とだけ伺っていました。どの革を当てるかは、お預かりした一着を見てから決めます。同じ黒でも、銀面の艶とシボの出方が合っていなければ、光の下で継ぎ目が浮きます。継ぎ目の位置とステッチで、意匠として納まるように仕立てます。
ご自身の一着で確かめられること
鏡の前で前を閉めて、息を吸ってみてください。
胸だけが張るのか、裾まで張るのか。張る範囲がそのまま、革を足す範囲になります。胸だけなら胸から、裾までなら裾まで。途中で止めると、そこに段が出ます。
ご自身の一着がどの症状にあたるか分からないときは、革ジャンのサイズが合わない|症状別に見る直せる範囲をご覧ください。
仕上がり
この一着の仕上がりは、施工事例「Lewis Leathers|ダブルライダース|バストから裾まで、まっすぐ革を足す」にまとめています。
ご相談ください
前を閉めて横から撮ったお写真と、きつく感じる箇所を添えてご相談ください。どこまで足すとその一着らしさが薄れるかは、造りと革によって変わります。現物を拝見してからお答えします。
