「サイズが合わない」というご相談は、工房にいちばん多く届く言葉です。ただ、いただいたお話をうかがっていくと、合っていない場所も、直し方も、一着ごとにまるで違います。
このページでは、どこをどう直すかを決めるまでの考え方を、修理台の上から順に追っていきます。直せる範囲そのものについては 革ジャンのサイズ感と選び方 に、肩の大小の見分けについては ライダースの肩幅の選び方 にまとめてあります。こちらは、あなたの一着のどこに手を入れるかを決めるためのページです。
サイズが合わない、には三つの向きがあります
ご相談を整理すると、たいてい次の三つのどれかに収まります。
- 小さい──前は閉まるけれど、胸や肩に張りが出る。腕を通すと窮屈さが残る
- 大きい──肩が落ちる。身頃が余って、シルエットが決まらない
- 動けない──寸法としては合っているのに、腕を前に出す動きだけが苦しい
この三つは、手を入れる場所が違います。ですので、まず自分がどれなのかを決めるところから始めます。
「ワンサイズ」は、体のどこが何cm違うのか
サイズ表記が一つ違うと、実際の一着は何が変わるのか。ここが分からないまま「ワンサイズ大きい気がする」とお考えの方が、とても多くいらっしゃいます。
工房では、ワンサイズを胸まわり5cmとして見立てています。ぐるりで5cmですから、脇の縫い目で分けると左右2.5cmずつ。これがそのまま、詰める幅・足す幅の出発点になります。
出身によって、この幅は少し変わります。
- 英国・米国のブランド(表記が36・38・40など)──ワンサイズは胸まわり5cm。2インチにあたります
- 欧州表記のブランド(46・48・50など)──ワンサイズは胸まわり4cm。左右では2cmずつ
そして、サイズが一つ動くとき、変わるのは胸まわりだけではありません。同じ一段のなかで、次のところも一緒に動いています。
- 肩幅 1〜2cm
- 裾まわり 4〜5cm
- 袖丈 0.5〜1cm
- 着丈 0.5〜1cm
「ワンサイズ下げれば全部ちょうどよくなる」とはならないのは、このためです。胸を5cm詰めれば、肩も裾も袖も一緒に動きます。どこかが合えば、どこかが合わなくなる。既製の一着でサイズ選びが難しいのは、この連動があるからです。
ブランドごとの表記の癖については、ルイスレザーのサイズ選びで後悔しない に、モデル別の構造差まで書いています。
小さいとき──詰める幅は、上と下で違います
詰める作業でいちばん多いのは、身幅と肩幅です。ここで一つ、覚えておいていただきたいことがあります。身幅を詰めると、袖幅も一緒に細くなります。脇の縫い目は、脇の下で終わらずに袖の下までひと続きになっているからです。胴だけを細くする、ということはできません。

そして、詰める幅は上下で一定になりません。実際にお預かりした一着では、バストで左右2.5cm、裾で左右3.5cmと、下にいくほど大きく詰めています。胸に合わせて裾も同じだけ詰めると、今度は裾が余ります。工程は ルイスレザーの肩幅と身幅を詰めた記録 に、寸法とあわせて残してあります。

肩幅は、袖をいったん外してから位置を決め直します。肩が落ちているのか、それとも身幅が余ってそう見えているのか。ここは見立てが分かれるところなので、写真だけで断定せず、現物で確かめています。
大きいとき──革を継ぎ足すという直し
小さい一着を大きくするときは、縫い代から出すのではなく、革を継ぎ足します。脇に革を足して、身頃そのものを広げる直しです。

ここでも、連動が起こります。お預かりした一着では、バストで左右5cm・裾で左右4cmを足しました。胸まわりがぐるりで10cm広がると、アームホールも左右5cmずつ広がります。腕の通り道が変わるということなので、袖幅にも革を足して合わせます。記録は サンセットベイのサイズアップ にあります。
どこまで大きくできるのか、どんな考え方で足す場所を決めるのかは、革ジャンはどこまで大きくできるのか と その窮屈さ、どう直す? に詳しく書いています。
動けないとき──寸法ではなく、腕の通り道のこと
三つ目が、いちばん見落とされます。胸も肩も合っているのに、腕を前に出す動きだけが苦しい。この場合、胴を広げても解決しません。窮屈さの出どころが、身幅ではなく袖ぐりにあるからです。
「前は閉まるが腕が動かない」と感じるときは、まず脇の下がどうなっているかを見ます。脇下の可動については 革ジャンの脇下アクションプリーツガイド に用語としてまとめてありますので、あわせてご覧ください。
直したあとに、戻せないこと
決める前に、お伝えしておきたいことが二つあります。
一つは、詰めた革は戻らないということ。詰める作業では、余った分の革を身頃から断ちます。先ほどの写真で、身頃の横に置かれている細長い革がそれです。あとから元の身幅へ戻すには、革を継ぎ足す別の作業になります。
もう一つは、継ぎ足す革の色味と風合いは、そろわないことがあるということ。同じ黒でも、年月を経た一着の革と、これから足す革とでは表情が違います。工房ではできるだけ近いものを選びますが、完全に見分けがつかなくなる、とはお約束できません。そこも含めて一着の姿になる、とお考えいただける方に向いた直しです。
どちらも、迷われたときは現物を拝見してからご相談します。決めきらないままお預かりして構いません。
直す前に、測っておいていただきたいところ
ご相談の前に、平置きで四か所だけ測っていただけると、話がとても早くなります。着たまま測るのではなく、床やテーブルに平らに置いて、前を閉じた状態で測ってください。
- 身幅 脇の下から脇の下まで、まっすぐ
- 肩幅 肩の縫い目の端から端まで
- 袖丈 肩の縫い目から袖口まで
- 着丈 襟の付け根から裾まで

袖丈は、袖口から詰めるか肩口から詰めるかで、残るものが変わります。決め方は 革ジャンの袖丈詰めガイド にまとめました。
もう一つ、いちばん確かな方法があります。お手持ちの服で「このサイズ感が理想」という一着を、一緒にお送りいただくこと。数字よりも早く、正確に決まります。実際、サンプルをお持ちくださった案件では、お預かりした時点で寸法が確定していました。
革そのものは、伸びるのか
「着ているうちに馴染むのでは」というご相談も、よくいただきます。革は着るほどに体へなじんでいきますが、それで解決する窮屈さと、そうでない窮屈さがあります。その線引きは 革ジャンがきつい…という疑問にお答えします に書きましたので、そちらをご覧ください。
ご相談のときに、お持ちいただきたいもの
- 写真──正面・背面・横、それと腕を前に出した状態
- 平置きの寸法──上の四か所
- 着ていて気になる場所──「胸が張る」「腕が上がらない」など、感覚のままで構いません
- 理想のサイズ感に近い一着──お持ちであれば
どこを直すかは、この四つがそろえばおおむね決まります。決めきれないところは、お預かりしてから現物で確かめ、着手の前にご相談いたします。
