年代物のA-2をお預かりしています。「大切なA2をなんとかしたい」「着られる状態にしたい」というご依頼でした。
以前、別のA-2のフルレストアを ヴィンテージA-2のフルレストア に記録しました。あちらは一度に替えるという判断の話です。こちらは逆で、替えないものを決める話になります。
お預かりした状態
背中に、手で描かれた絵があります。文字と、爆弾にまたがる兎と、赤い印が二列。前身頃には、名札を留めるための台と、丸い記章。革は全体に灼けて、色が抜けています。
けれど、革そのものは生きていました。手で押しても、割れる気配がありません。

先に限界が来たのは、革ではありませんでした
いちばん先に音を上げたのは、糸です。肩から袖にかけての縫い目が綻び、そこから傷みが順に広がっていました。
裾のリブは編み地が伸びきり、下端が擦り切れて、二か所に裂けができています。袖口のリブも同じように痩せています。裏地は色が褪せ、何か所も裂けていました。
革が持ちこたえているあいだに、それ以外のものが順番を迎えた。そういう一着でした。

替えるもの ── リブと裏地
リブは、袖口と裾の両方を新しいものに取り替えます。編み地が伸びてしまったリブは、洗っても縮めても戻りません。ここは替える以外にありません。今回のリブは、お客様がご自分でご用意くださいました。

裏地も、全体を新しい生地に替えます。生地は、リブと同じくお客様がご用意くださいました。
裏地は、既製の型に当てはめるものではありません。お品物ごとに寸法を測り、そのつど型を起こします。年代を問わず、そうしています。いまの裏地を解いて、それを写して型にする。裂けていても、縫い代と切り替えの線は読めます。

替えないもの ── ファスナー
前のファスナーは、替えません。
まだ動くからです。年月を経たファスナーは、もうこの一着の一部になっています。動くのなら、替える理由がありません。
この一着で言えば、務歯は左右とも欠けずに残っていて、傷んでいるのは布のテープのほうでした。穴が開き、裂けているところがあります。ですので、そこを補強して、同じ位置へ戻します。

それでも、一度外して付け直します
ここが、この一着でいちばんお伝えしたいところです。
替えないのに、一度外して付け直します。裏地を替えるには、そこへ届かなければならないからです。前立てのファスナーは、裏地と一緒に縫い込まれています。裏地を替えるということは、その縫い目を解いて、また縫い戻すということです。
工程は、ファスナーを交換するのとまったく同じ。違うのは、新しいものを使わないことだけです。ですのでお見積りにも、交換と同じ項目が並びます。
むしろ、替えないほうが手はかかります。新しいものに付け替えるなら、古いほうは切ってしまって構いません。生かすとなると、テープを傷めずに解き、歪ませずに外し、同じ位置へ戻す必要があります。
触れないもの ── 革と、背中の絵
革そのものと、背中の絵には手を入れません。色を入れ直すことも、洗うこともしません。灼けも、擦れも、この一着が過ごしてきた歳月の形です。
絵の入った一着は、替えられるところしか替えられないとも言えます。だからこそ、替えられるところは丁寧に替えて、あとは触らない。着られる状態に戻すというのは、そういうことだと考えています。
お手持ちの一着でも、確かめられます
ファスナーを替えるかどうかは、三つのところを見れば、見当がつきます。
- スライダーが、途中で引っかからないか
- 務歯に、欠けや歪みがないか
- 布のテープが、ほつれていないか
動くのなら、まだ替えなくてよいかもしれません。ファスナーそのものの直しについては フロントファスナーの交換 に、裏地の替え方については 裏地交換 に、それぞれまとめてあります。リブについては リブ交換 をご覧ください。
仕上がりまでの見通し
いまは着手前です。裏地を解き、型を起こし、リブを付け替え、ファスナーを戻す。その順で進みます。仕上がりましたら、この記録にアフターの写真を追記します。
