前のファスナーは、問題なく閉まる。丈も肩も、悪くない。
なのに、腕を前に出すと背中が引っ張られる。上に上げると脇が食い込む。 バイクに乗ると、ハンドルまで腕が届きにくい。
このとき、多くの方が「痩せないと着られない」と考えます。ですが前が閉まっているなら、身幅は足りています。 足りていないのは、別の場所です。
前が閉まらない場合は、話が変わります。そちらはサイズアップをご覧ください。この記事は、前は閉まるのに腕が動かない一着の話です。
原因は、三つに分かれます
「脇がきつい」という一言の中に、まったく違う三つの状態が混ざっています。
① 袖ぐりの径が小さい(アームホールが小さい)
腕の付け根が通る穴そのものが小さい状態です。腕を下ろしていれば楽なのに、上げると脇が食い込むなら、これです。
ライダースに多く見られます。バイクの前傾姿勢に合わせて、袖ぐりを小さく、袖を前振りに設計してある型があるためです。設計としては正しく、街で着ると窮屈という状態が起きます。
② 袖幅(二の腕)が細い
穴は通るけれど、その先の筒が細い状態です。腕を下ろしていても二の腕が張る、袖をまくれない、というならこちらです。「二の腕 きつい」で探している方は、たいていこれです。
③ 身幅が足りない
胴に余裕がなく、腕を動かすと胴の生地まで引っ張られる状態です。前を閉めた状態で腕を前に出すと、背中が突っ張るなら、身幅も関係しています。
①と②と③は、直す場所が違います。 ここを取り違えると、直したのに変わらない、ということが起きます。
ちなみに、kawaremake に届く相談でいちばん多いのは①の袖ぐりです。次に③の身幅、②の袖幅はいちばん少ない。「脇がきつい」と感じたとき、まず疑うべきは袖ぐりだと考えてよいと思います。

自分で見立てる、三つの確認
工房でも最初にこれを見ます。鏡の前で、着たままやってみてください。
確認1|腕を、真横に上げる
肩の高さまで上げたときに、脇の下が食い込むなら ① 袖ぐりです。 上げること自体はできるのに、上着の裾が一緒に持ち上がるなら ③ 身幅寄りです。
確認2|腕を、前に出して交差させる
背中が張るなら、③ 身幅です。肩甲骨のあたりが引っ張られる感じが目安になります。 背中は平気で、脇のあたりだけが突っ張るなら ① です。
確認3|二の腕を、指でつまむ
袖の生地を指でつまめないなら ② 袖幅です。下ろした状態でつまめないのは、腕の太さに対して筒が細いということです。
三つのうち二つ以上に当てはまることも普通にあります。その場合は、優先順位をつけて直します。
それぞれ、どう直すか
① 袖ぐりが小さい場合
袖をいったん外し、脇の下に革を継ぎ足して袖ぐりを広げます。継ぎ足した革の分だけ穴が大きくなり、腕が通るようになります。
同じ革が手に入らない場合は、もともとの一着から目立たない場所の革を回すか、色と質感を合わせた革を足します。脇の下は視界に入りにくい場所なので、継ぎ目があっても着姿には出にくい部位です。
kawaremake での目安は、左右あわせて5cmほどです。ただしこれは推奨で、上限ではありません。 革を足していく作業なので、どこまで広げられるかは寸法ではなく、一着ごとの構造で決まります。
構造でとくに効いてくるのが、脇下の切り替え線がどこを通っているかです。後ろ寄りに付いている一着では、寸法を動かしたときにアームホールの段差が大きくなり、袖の付き方が変わります。段差が残ると、直したのに着心地が落ちる、ということが起こり得ます。この場合は袖を外して付け直すところまで含めて考えます。
② 袖幅が細い場合
袖の縫い目を開いて、革を足して筒を太くします。 袖下の縫い目に沿って足すと、継ぎ目が内側に隠れます。
なお逆方向——細くするほうの話をすると、多くのジャケットでは脇の縫い目が袖下までひと続きなので、身幅を詰めると二の腕も一緒に細くなります。 「胴だけ詰めたい」は、構造上なかなか成立しません。詳しくは身幅詰めの記事に書きました。
③ 身幅が足りない場合
脇に革を継ぎ足して、胴回りを作り直します。→ サイズアップ
「アームホールを詰めたい」という相談について
検索では「アームホールを詰める」を探している方もいます。広げたい人と、詰めたい人が、同じ言葉を使っています。
詰めたい場合は、たいてい肩が落ちて、袖ぐりが下がりすぎている状態です。腕の付け根より下に穴があるので、袖が余って見える。
このとき袖ぐりだけを詰めても、あまり変わりません。 袖ぐりの位置を決めているのは肩の幅だからです。肩幅を詰めると、袖の付け位置が上がり、袖ぐりも一緒に上がります。
つまり「アームホールを詰めたい」と感じたときの実際の作業は、肩幅詰めであることが多いです。
写真だけでは、決められません
正直なところを書きます。
この見立ては、写真だけでは確定できません。 袖ぐりのきつさは、着ている人の腕の太さ、肩の厚み、可動の癖と、一着の設計が組み合わさって出るものだからです。同じ寸法の一着でも、着る人によって窮屈さは変わります。
ですので kawaremake では、お預かりしてから最終的な直し方を決めることがあります。写真とご相談の内容で見立てを立て、実物で確かめて、必要なら組み直します。
先に決めきらないほうが、良い結果になる——この作業に関しては、そう考えています。
迷ったときの、決め方
一つだけ。
前は閉まりますか。
閉まるなら、痩せる必要はありません。 直すのは袖ぐりか、袖幅です。 閉まらないなら、身幅から手を付けます。
どちらにしても、動かないまま着続けると、革は脇から裂けます。 突っ張った状態で力がかかり続ける場所だからです。裂けてからでも直せますが、裂ける前のほうが、選べる直し方が多いです。
「腕が上がらない」だけでは、どこを直すべきかは決まりません。上の三つの確認をした結果を教えていただければ、どこに原因がありそうかをお伝えできます。
山形県鶴岡市の工房で、全国からご配送でお預かりしています。
