革の一着で、いちばん先に順番が来る部位はどこですか、と訊かれることがあります。革ではありません。多くの場合、リブです。
袖口が伸びて、手首で止まらなくなった。裾が波打って、着るたびに気になる。しまっていたあいだに、小さな穴があいていた。革はまだ十分に元気なのに、編み地だけが草臥れている——そういう一着が、全国から届きます。
このページでは、リブがどこに使われ、どう傷み、どう交換していくのかを、修理台の視点から順にご説明します。交換用のリブはお客様にご用意いただく持ち込み制ですので、その選び方もあわせてご案内します。

リブとは——革に添えられた、もう一つの素材
リブ(リブニット)は、畝のある編み地のことです。伸び縮みするので、体の動く場所や、風の入り口を留める場所に使われます。革の一着では、襟・袖口・裾の三箇所が主な居場所です。
A-2やG-1といったフライトジャケット、ブルゾン、スイングトップ。ライダースでも、型によっては袖口や裾に編み地を持つものがあります(ショットとはでご紹介した型のなかにもあります)。お手元の一着の袖口を折り返してみて、編み地が見えたら、それがリブです。
役割は、留めることです。風を入れず、体に沿わせ、動きを妨げない。革だけでは担えない仕事を、編み地が引き受けています。
なぜ、リブから先に草臥れるのか
革と編み地では、年月の進み方が違うからです。
厚みのある革は、着るほどに体に沿い、手を入れながら長く付き合えます。編み地はそうはいきません。リブには伸縮を持たせるためのゴム素材が編み込まれていますが、これは年月とともに劣化していきます。袖を通し、腕を抜き、裾を伸ばす。その繰り返しのなかで、戻る力が失われていく。使い方が悪かったわけではなく、そういう素材だということです。
もうひとつ、リブにはウールを含むものが多く、虫の好む素材でもあります。着ているあいだよりも、しまっているあいだに傷むことのほうが多い。日々の扱いよりも、しまい方のほうが効く部位です(革ジャンの保管方法でも触れています)。
ですので、リブが草臥れていること自体は、その一着を大事にしてこなかった証ではありません。順番が先に来ただけです。
こんな症状が出たら

傷み方は、大きく三つに分かれます。
伸び。手首や腰で止まらなくなった状態です。折り返しても戻らず、風も入ります。着るたびに気になるのは、たいていこれです。
ヨレ。編み地が波打ち、面が整わない状態です。片側だけが伸びていたり、縫い付けの糸が引きつれていたりします。着心地には出にくいのですが、遠目に一着の輪郭がぼやけるので、見た目への影響はむしろ伸びより大きいことがあります。
破れ・虫食い。穴があいた状態です。虫食いの場合、一箇所だけということは少なく、たいてい近くにもう一つ、二つあります。穴の周りの糸も弱っているので、繕って留めるよりも、交換のほうが結果が落ち着きます。

このほか、硬くゴワついてきた、色が極端に変わってきた、というのも交換を考えるころ合いです。
見分けにくいのは、伸びとヨレが同時に来ている場合です。写真だけでは判断しきれないことも多いので、着たときにどう感じるか——手首で止まらない、裾が落ちてくる、片側だけ引きつる——を言葉で添えていただけると、見立てが早くなります。
お悩みの全体像から手の入れ方を探す道筋は、症状別診断にまとめました。
リブは、お客様にご用意いただきます
リブ交換は持ち込み制で承っています。交換用のリブは、お客様ご自身でお選びのうえ、ジャケットと一緒にお送りください。
ご自身で選んでいただくのは、その一着に何を合わせるかが、着る方の好みに委ねられる部分だからです。工房で一律にご用意するより、納得のいく一本を選んでいただいたほうが、仕上がりに悔いが残りません。選び方はご案内します。
選ぶときに見る、三つ
色は、新品当時ではなく、いまの一着に合わせます。日に焼けた革、褪せた裏地。その現在の色調に寄せたほうが、収まりが良くなります。
畝の太さは、一着の表情を決めます。太い畝は素朴に、細い畝は端正に見えます。元と同じ幅を探すのが基本ですが、廃番の編み地も多いので、近いものから選びます。
厚みは、着たときの納まりです。厚すぎれば袖口がもたつき、薄すぎれば留める力が足りません。
ご購入の前に、いまのリブの写真を
お買い求めになる前に、現在ついているリブの写真をお送りください。寸法の取り方と選び方をご案内し、適合を確認したうえでお受けしています。買ってから合わないと分かるのが、いちばん惜しいところです。
購入先の一例として、MASHオンラインストア(リブニットカテゴリ)があります。色・厚み・目の詰まり具合を見比べられます。
交換の道筋と、そのあとの締め付け
外して、合わせて、縫い戻します。
古いリブを外すときに大切なのは、元の縫いの道筋を読むことです。革の側には、前に縫われた針穴が残っています。新しく穴を開けずに、その道を辿って縫い戻す。革は、糸を抜いても穴が塞がりません。だから、道は増やさないのが原則です。
袖口にファスナーやスナップのある型は、そこをいったん外してから納めます。裾のリブは、脇の縫い代やベルトとの取り合いがあるので、順番を違えると仕上がりに皺が残ります。同じ「リブ交換」でも、襟・袖口・裾のどこか、金具の有無、裏地の納まりによって、手の入れ方はずいぶん変わります。

交換したばかりのリブは、新品ですので、ややきつく感じられることがあります。とくに裾は、伸びきった状態に慣れていると、締まり方に驚かれるかもしれません。着ていくうちに体へ馴染んで伸びますので、はじめは少しタイトめに納めることもあります。
締め付け感は、ご指定いただけます
「タイトめ」「ルーズめ」といったお好みがあれば、お預かりの前にお伝えください。ご指定がなければ、全体のバランスを見ながら自然なところに納めます。
交換で戻るもの、戻らないもの
戻るのは、留める力です。袖口が手首で止まり、裾が腰で落ち着く。着心地は、思っていた以上に変わります。
そしてもうひとつ、輪郭が戻ります。リブは面積こそ小さいものの、袖口と裾という一着の縁を作っている部位です。ここが整うと、革の風合いはそのままに、全体が締まって見えます。
戻らないものもあります。元の編み地そのものは戻りません。年月を経たリブの色や毛羽立ちは、その一着の顔の一部です。新しい編み地は、どうしても新しい。革との馴染み方は、選び方で寄せることはできても、同じにはできません。そこは先に申し上げておきます。
リブを長持ちさせるために
- 濡れたまま置かない。ゴム素材の劣化を早めます。
- 引っかけない。脱ぎ着のとき、面ファスナーや金具に触れないよう気をつけてください。
- 緩みはじめで手を打つ。破れるまで待たず、緩んできたころに替えたほうが、革の側への負担も少なくて済みます。
- しまい方を見直す。虫食いは、着ているあいだではなく、しまっているあいだに起きます。
ほかの傷みと一緒に
袖口のリブを外す工程は、袖丈に手を入れるときの道筋と重なります。袖が長い、短いというお悩みが同時にあるのでしたら、一度で納めたほうが仕上がりも落ち着きます(袖丈詰めは肩から?)。
擦り切れた裏地、噛みの直らないファスナー。リブが草臥れている一着には、ほかの部位にも同じだけの年月が流れています。全体を拝見したうえで、いま手を入れるところと、まだ待てるところをお伝えします。ほかの直しについては革ジャン・レザージャケットの修理にまとめました。
見極めと、正直にお伝えすること
お預かりの前に拝見しているのは、編み地そのものより、リブが縫い付けられている革の側です。縁の革がひび割れていたり、硬くなっていたりすると、縫い直しの負荷に耐えられないことがあります。編み地は新しくできても、革が保たないと見立てた場合には、その理由とともに、手を入れない選択肢をお伝えすることがあります。
できること、できないこと、仕上がりに残るもの。それを正直に申し上げたうえで、進むかどうかを決めていただく。その順番を大切にしています。
まずはご相談ください
袖口が伸びたまま、裾が波打ったまま、着る回数が減っていく。リブの傷みは、そうやって一着を静かに遠ざけてしまいます。革がまだ元気なら、戻せることのほうが多い部位です。
気になる箇所と全体の写真を数枚添えて、お気軽にご相談ください。いまのリブの写真があれば、選び方もあわせてお答えします。
